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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(さ)4号 判決

主文

熊本簡易裁判所が昭和三一年二月二八日被告人に対する道路交通取締法違反の公訴事実につきなした略式命令を破棄する。

同略式命令にかかる被告人に対する道路交通取締法違反の公訴事実につき被告人を免訴する。

理由

検事総長の本件非常上告理由について。

被告人は、「自動三輪車運転の業務に従事するものであるが、法令に定められた運転の資格を持たないで且つ酒に酔い正常な運転が出来ない虞れがあるに拘わらず、昭和三〇年五月一九日午後一時頃玉名市滑石より熊六-一〇二八〇号自動三輪車を運転して無謀操縦を為し玉名市高瀬町内を乗り回し云々」の公訴事実(道路交通取締法七条一項、二項二号、三号、二八条違反)その他所論の公訴事実につき昭和三〇年七月二一日玉名簡易裁判所において所論の有罪判決を言渡され、該判決は、同年八月三日確定したこと、竝びに、被告人は、「法令に定められた運転の資格を持たないで昭和三〇年五月一九日午後一時四〇分頃玉名市寺町道路において三津家所有の自動三輪車を運転して無謀な操縦をしたものであるとの道路交通取締法違反(同法七条一項、二項二号、九条、二八条)の公訴事実につき昭和三一年二月二八日熊本簡易裁判所において所論の略式命令が発せられ、該命令は同年三月二四日確定したことは一件記録に徴し明白である。しかるに、右二個の公訴事実は、その日時、場所、無謀な操縦の理由その他の点の表現が異り、一見別個の犯罪事実のように見えるが、一件記録を仔細に検討すると、同一被告人が運転の資格を持たないで且つ酒に酔い正常な運転が出来ない虞あるに拘らず、昭和三〇年五月一九日午後一時頃三津家某から借受けた西村義彦名義の熊六-一〇二八〇号自動三輪車を運転して玉名市滑石より同市高瀬町内を乗り回し同市同町一一九番地飲食店原口信彦方前道路において傷害事故を起したがこれに気付かず依然操縦を続け同市寺町大成楼前において停車した一連の無謀な操縦をした行為であることを認めることができる。されば、前記略式命令にかかる無謀操縦の公訴事実は、既に有罪の確定判決を経た前記玉名簡易裁判所の無謀操縦の公訴事実と一罪の関係にあるものというべく、従って、右熊本簡易裁判所の略式命令は、既に有罪の確定判決を経た犯罪事実につき重ねて裁判をしたことに帰し、刑訴三三七条一号に違反し、この違法は、被告人のため不利益であるものといわなければならない。

よって、刑訴四五八条一号により前記略式命令を破棄して更に判決をすることとし、同三三七条一号に則り右略式命令にかかる公訴事実につき被告人を免訴すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 入江俊郎)

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